sanuki story project

181ハンカチ王子 香川県  匿名希望さん
切ない話
晴れの多い香川県に生まれ育った私は、傘を持たない。
予報は大雨でも、すぐに晴れるんじゃないかと信じているからだ。
ある日、眼科を出ると、小雨が降り始めた。
早く帰ろうと、駐輪場に行くと、自転車の鍵がない。
ポケットやカバンの中をくまなく探していた。
すると、隣の若い青年が、すっとハンカチを差し出してきたのだ。
「これ、使ってください」
「え?」
「これで座席拭いてください」
「…ありがとうございます」
座席が濡れていることなど、全く気にもしていなかったのだが、とりあえず拭いて返した。お礼をもう一度言うと、ハンカチ王子は笑顔で立ち去った。いまだかつて、そんな優しさを受けたことがなく、その場で好きになってしまった。そのお方は、今まで出会った男性の中で、おそらく一番男前だった。
ただ、ひとつ残念なことは、眼科でコンタクトを外していたので、顔が全くわからなかったことだ。