さぬきストーリー・プロジェクト

新企画 さぬきストーリー・プロジェクト

香川県  吉川寛人さん

投稿作品

No.125【アリジゴク】

切ない話

小学一年生のある日、友達数人と僕は校長先生と一緒に下校していた。
理由は覚えていないがその日だけ何故か校長先生がいた。
校長先生は物静かな人だったので、その日の会話は別段盛り上がることもなくただ帰り道を歩いていた。
しかしその途中、校長先生が急に「アリジゴクを取ってやろう。」と言い出し、落ちている小枝で山の斜面の土をほじくり始めた。
校長先生の奇行に僕と友達は呆気に取られていたが、ものの数秒で小枝にしがみついたアリジゴクが土から出てきた。
それも一匹だけではなく、二匹、三匹と、校長先生が小枝でほじくる度に土から出てきた。
友達の反応は覚えていないが、少なくとも僕は図鑑でしか見たことがなかったアリジゴクを目の前にして興奮していた。
その日僕はその中の一匹を持って帰ることになった。
帰宅後すぐに土を入れた虫籠の中に投入。アリジゴクとの生活が始まった。

翌日、アリジゴクは摺鉢状の「地獄」を作り、その中心でハサミのような上顎を天に向け、自身の存在を誇示していた。
「かっこええ…」
異様なテンションの高まりを全身に感じていた僕は、庭にいたアリを捕まえ、虫籠の中に入れてみた。
するとアリはみるみる地獄に引きずり込まれ、アリジゴクの上顎の餌食になった。
「めっちゃかっこええ…」
こうして小学生の僕はアリジゴクという小さなヒーローに夢中になった。
暇さえあれば虫籠を覗き込み、布団に入ってからもアリジゴクのことで頭がいっぱいになっていた。
しかし子供というのは残酷なもので、日が経つに連れその熱は冷めていった。その後アリジゴクがどうなったのか覚えていない。
土ごと捨ててしまったのかもしれない。

その翌年だっただろうか、校長先生は学校を離れることになった。
終業式を終え、1人で下校している時、ふと校長先生が捕まえてくれたアリジゴクの事を思い出した。
校長先生のアリジゴク採取法を記憶していた僕は、今度は自分で取ってみようと思い、あの日の校長先生と同じ場所を小枝でほじくってみた。
しかしどうしたものか、取れない。ほじくれどほじくれど取れない。
僕はただ単に小枝で土をほじくり回している小学生の域を脱し得なかった。
十分ほど格闘したものの、ついに一匹も捕まえることができなかった。

校長先生とアリジゴクにはもう会えないんだと僕は思った。

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