sanuki story project

85ほんわかしたうどん屋 香川県  けんちゃんさん
笑える話 うどんネタ
 店が特定されると困るので詳しくは書けないが、そのうどん屋は、昔は大層賑わったが今では寂れて、昭和の香りが漂う飲食店街にある。ごくごく狭く、お世辞にもきれいとは言えない。滝田ゆうの漫画に出てきそうな何とも形容しがたい、ほんわかした、そしてペーソスを感じさせるオジサンさんが一人でやっている。うどんもほんわかしているが、コシもあり、薄めの出汁とあいまって美味い。しかし、いつ行っても空いていた。
 私は、この店を密かに応援しているが、手際があまり良くないので、人には勧めていない。手際があまり良くないのは、例えば、こんな具合である。この店では、ほとんどの場合、茹でたてのうどんを食べることができ、天ぷらも揚げたてである。しかし、「うどん12分待ってください」と言いながら、他に客もいないのに先に天ぷらだけが揚がってきたり、天ぷらの注文が多い日は、うどんだけ先に食べる羽目になることもある。私は、こんなこともご愛敬だと思っているが……。
 さて、それでは、このうどん屋での目撃談を紹介することとしましょう。

【1 当たりすぎる占い】
 ある日の昼、うどんを食べに行ったところ、「今日の占いは最悪やった~。テレビ見て、あぁ~最悪やと思うたら、指弾いてもうた」と独り言を言いながらうどんを茹でていた。見れば、左の人差し指に張った絆創膏には血がにじんでいる。しかし、悲劇はそれだけではなかった。なんと、うどんを釜から揚げるときに手元が狂ってうどんをタタキに落としてしまったのである。店主は、「ほんま、最悪や!占い当たり過ぎや!」と叫んだ。

【2 肉なしカレーうどん】
 また、ある日の昼、客が「肉うどん」と言ったら、「はぁ~い!」と珍しく元気な返事が帰ってきた。しかし、冷蔵庫を開けて、「あ~ぁ、肉なかったわぁ」とつぶやいた。客が「じゃあ、カレーうどん」と言うと、「は~ぃ、肉なしやけどぉ」と弱々しい返事が返ってきた。

【3 行列できたぁ】
 そんな、「ぬるい」、好意的に見れば「ほんわかした」うどん屋であるが、うどんの美味さが口コミで伝わったのか、最近は、昼時は満員で入れない日もある。そして、またある日、うどんを食べていて外を見ると、なんと4~5人のお客さんが外で待っているではないか。店主もそれに気づき、「ウチの店にも行列ができたぁ~!」と感涙にむせんでいた。